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■ソフトボール部兼任と合わせて部員21人でスタート
神奈川県に所在する明治大学生田キャンパス。緑豊かな多摩丘陵の高台にあるグラウンドで、今春創設されたばかりの女子硬式野球クラブが週3日、活動を行っている。
部員は12名、ソフトボール部との兼任を合わせると21名いるが、平日は授業との兼ね合いで練習に集まるのは数名程度。男子の生田硬式野球部の練習に混ざりながら、打撃練習や守備練習などで汗を流す。
元々は生田硬式野球部にマネージャーとして入部した仲ひよりさん(1年)は「面白そうだったから」と体験入部。野球は未経験ながら、左打席から快音を響かせる。川嶋亜莉沙さん(1年)は「SNSで(女子硬式野球クラブの創設を)見かけたから」と入部を決めた。こちらも野球をやるのは始めてだが、二塁のポジションで軽快にノックを受ける。ソフトボール部と兼任で「どちらもやりたいです」と意欲を語った。
■藤崎匠生監督「勝ち負けじゃない部分を大切にしてやりたい」
クラブを立ち上げた藤崎匠生監督(24)は、硬式球を追う女子部員の姿を笑顔で見つめる。「野球をやったことのない素人の子が大学で野球を始めるということがうれしいです。このクラブを作った目的は勝つとかじゃない。まずは勝ち負けじゃない部分を大切にしてやりたいな、と思います」
自身も明治大学の1年生として、生田硬式野球部に所属しながら女子硬式野球クラブの監督を兼任し、部員のサポートを行っている。
藤崎監督は高知中央高校で主に外野手としてプレー。卒業後は地元の高知県などで消防士として働いていたが、2019年、母校が女子硬式野球部を立ち上げ、恩師だった西内友広さんの監督就任に伴い、外部コーチに就任した。
「ビックリしましたね。バッティングはどうしても男子に劣るんですけど、守備が本当に上手でした」。それからは仕事と両立する形で本気で部員と向き合い、自身の技術や経験を伝えてきた。
■高知中央高外部コーチ時代の甲子園準優勝が転機
高知中央は創部3年目の2021年8月23日、史上初めて甲子園で行われた全国高校女子野球選手権の決勝に進出した。神戸弘陵(兵庫)に0-4で敗れ準優勝に終わったが、スタンドから教え子たちの活躍を見守った藤崎監督は、人生の大きな決断を下すことになる。
「言葉では言い表せないくらい感動しました。この経験はお金では買えない。この甲子園の試合を見て、女子野球の発展に携わっていきたいと決めました」
高校卒業後も硬式野球を続けたい女子部員の選択の場は限られてくる。2009年に創設された日本女子プロ野球機構は2021年に無期限の活動休止を発表。阪神、西武、そして巨人が参入を決めたNPB球団公認チームもあるが、入団できるのはほんの数人、大学野球部も8校しかなく、狭き門となっている。
■明治大学特別試験合格、消防士の職を捨て高知から神奈川へ
藤崎監督は女子選手が勉強と野球を両立できるような環境を作りたいと考え、明治大学農学部の特別入試受験を決意した。そして2021年秋、1次試験の書類選考を突破し、2次試験では「農業と女子野球のコラボレーションによって新しい価値を生み出す」というテーマを掲げ、10分間のプレゼンテーションを行い、見事合格を勝ち取った。
消防士の職を辞することを家族から心配されたが「自分の人生は自分で決めるタイプなので。やり切ると決めて家族と話をしました」。東京六大学初となる女子硬式野球部の創設へ向け、明治大学入学前からSNSなどで創設を積極的に宣伝。体育会硬式野球部の田中武宏監督や善波達也前監督の協力も取り付け、2022年4月、女子硬式野球クラブが結成された。
■「将来的に東京六大学リーグが創設されたら」
藤崎監督は「僕が声を上げたことがきっかけとなって、10年後、20年後、30年後、将来的に東京六大学リーグが創設されたら」と壮大な夢を語る。そのためには、今後2年間の活動実績を作り、大学公認サークル、そして体育会の正式な部へと昇格する必要がある。
野球未経験者が多く、まだ他校と試合を行う目処は立っていないが、地道な営業活動が実り、既にスポンサーも数社獲得。当面の目標である来年5月の全日本大学女子野球選手権出場へ向け、レベルアップの日々が続く。
「まずは野球を好きになってもらうことが希望です。素人でも野球を始めて野球を好きになってもらって、将来お母さんになった時に子供に野球をやらせることで、女子も男子も野球人口が増えていってくれることを期待しています」
歴史に彩られた東京六大学で新たな伝統を作るべく、明治大学女子硬式野球クラブは着実に歩を進めていく。
※一部略